ザ・コンサルタントのネタバレ感想

スーパーサガワブラザーズ

 ここでネタバレクエスチョンです。貴方は汚い金儲けのため、あえて自社の不正会計を暴き、その上で関係者を消すという回りくどい陰謀を実行する必要があります。そのためには優秀な会計士と、優秀な暗殺者が必要です。二人を雇用した場合、貴方の身に降りかかるリスクをそれぞれ答えなさい。ただし、会計士は佐川睦夫で暗殺者は佐川徳夫とする。


 ワタクシ、2017年最初の映画はバイオファイナルでして、シリーズ物だし去年公開だし・・・と何となく「今年初の映画」というイメージが足りなかった。だから気分的には今日観たこの「ザ・コンサルタント」のほうが映画初めっぽい感覚がある・・・のだが、二連続でトンチキ怪作を観てしまった俺の2017年、一体どうなってしまうんでしょうか。とても不安で仕方がないわ、スコセッシの沈黙観なくっちゃ!!(劇場版虐殺器官
に怯えながら)
 帰宅してから未観の母と話していて気がついたのだが、このザ・コンサルタントって130分もあるんだよな。言われてから気がついたのだが、「じゃあ夢中になって観れる面白い映画だったんでしょ」と母に言われたとき、俺は「いや、変な映画だった・・・」と力無く答えることしかできなかった。いやね、つまらない映画じゃないんですよ。ただ終盤がガイキチなだけでしてハイ・・・。


 かつて一人の自閉症の息子がいた。古い童謡を歌いながらパズルを組み立てる息子。不安と困惑に駆られる母親と、静かに兄の近くにいる弟。この子にはこの子の育ち方があると説く専門家に対し、軍人である父親は厳しい普通の世界でも生きていけるよう育てたいと答える。専門家が「普通、とは?」と問い返すなか、息子は他の自閉症の女の子の助けを借りつつ、将来の躍進を暗示するかのようにパズルを完成させる。
 時は流れて現代。かの息子、ベン・アフレック演じるクリスチャン・ウルフは公認会計士となっていた。自身の高機能自閉症に、自分なりのやり方で折り合いを付けながら。他人との不要な交流を好まない一方、仕事に関しては天から授かった才を見せる。だが彼にはもう一つの顔があった——世界中の裏社会に於いて、会計の些細な、だが致命的な齟齬に悩む悪党達に、救いの手をさしのべる助っ人としての顔。彼は表裏どちらの世界でも天才会計士として活躍していたのだ。いま現在はシカゴで静かに暮らしているが、彼の”倉庫”には大量の銃火器や現金、そして給料代わりの名画が隠されている。
 そんなウルフに二つ大きな動きが迫っていた。一つは相棒が拾ってきた仕事。たまにはカタギの仕事もしたら、と寄越してきた内容は、とある大企業の不正会計疑惑を暴くというものだった。最近は義肢の開発でも躍進しつつある企業の中に何らかの間違いが潜んでいる。手伝いとして配置されてきた女性との交流に少々戸惑いつつ、彼は自分の権能を存分に発揮し始めた。
 もう一つの動きは、本人から少々離れたワシントンにて起きていた。財務省の犯罪特捜部。若手の分析官メディナは突如として、長官のキングから過去を盾に脅迫される。銃を手にした汚点をばらされたくなければ、と強要された命令は、世界中の犯罪者・テロリスト達の裏帳簿に関わる謎の男の調査だった。やがてはクリスチャン・ウルフと判明するであろうその男は、しかし多数の偽名を使い、巧妙に自身の残滓を消し去っている。早速メディナの苦闘が始まったが、ほどなくして判明したのは、この男があるマフィアを皆殺しにした経験があるという斜め上の事実だった。映像には恐るべき戦闘力の片鱗が映っている。この”会計士”は一体何者なのか——?


 精神を落ち着けるために粗筋を書いてみたんですが、どっからどう見てもあんな終盤になるとは思えない。いやね、兄に黙ってついていく弟とか、そういう伏線がないわけではないんですよ。でもよぉ、いきなり護衛に雇った傭兵が仕事放棄して、乗り込んできた暗殺者と兄弟喧嘩したり、床に座ってダラダラ昔話しはじめたらどうするよ。仕事中だろお前ら!! せめて悲劇の対決〜もうあの頃には戻れないの〜ぐらいしろよ!! 雇ったラスボスさんが呆然として監視モニタ見つめる画のシュールさスゴイぞ!!(いやマジで)


 まぁ、終盤以外も結構変な映画ではある。カットバック技法といえど後半の種明しはどうにも話が長く、しかも激しく前後し過ぎている気がする。なんとなくバニシング・ポイント的な間隔(感覚というより間隔)で過去回想重ねてくのかなーっと思ったら一気に回りくどく話し始めるもんな長官。
 一方でアクション映画としてはなかなか面白くって、対物ライフルの容赦ない暴力を初めとするガンアクションと格闘は十分魅力的であった。「一撃で確実に射殺できたけど、念のためダブルタップしておく」とか「ダブルタップで確実に無力化できてるけど、念のため頭に一発」とか容赦なくてすこ。本人の気質にもピッタリだし。たまに偶然なのか意図的なのかCARシステムっぽい構えになるところとか萌えましたよ。格闘戦も、ベルト攻撃や絞め技など飽きさせず興奮する工夫がよく盛り込まれている。まぁベン・アフレックの当たり判定が凄く怪しかったり、暗い場面だとやっぱ見づらいなーって気になる所もありますが、総じてはモダンで熱いアクションにはなっています。
 ただストーリーになると、これが最初は感動話かな?と思ったら、割と主人公一家の狂気がチラついてきて不安になるというスゴイ映画になってしまう。優しいが頑固な父の決意。母との離別。と回想シーンを重ねてきたところ、突如として奇襲するジャカルタでの格闘訓練過去。なんだよアレ、いきなり映画のジャンルが・・・いや、ジャンルは間違えていない。成長したベン・アフレックがスーパー殺人マシーンになったことは、映画の初っ端から明示されている。しかしそれでもあの、いきなりジャカルタ!!格闘技の師匠!!暖色系フィルタの掛かった映像!!の「急に何かが間違ったアトモスフィア」は実際スゴイ。それに黙って兄についていく弟もどことなく不安をかき立てられる。自閉症の兄を持った応答はどんな感情を抱いているのか、というだけでも(こういう言い方はよくないんですが)ドラマになるところを、よりによって一緒にジャカルタ・カラテ訓練である。


 つまり、この兄弟は佐川兄弟だ。喧嘩商売/喧嘩稼業の。当然父も佐川父である。田島や山本陸といった具体的仮想敵がいなかったぶんハッピーEND気味になっているとはいえ。


 ということが観客に示されて以降、俺はもうこの映画がどう着地するのか不安で不安で(興味深い、という意味では「好みの映画」だ)しょうがなかったんですが、ラストがマジ佐川兄弟だったのでもうどうしよう・・・と呆然とするしかないのです、ハイ。
 良い映画か悪い映画か面白い映画か、と問われたとき、ここまで「変な映画」と答えざるを得ない映画も珍しい気がする。おバカ映画、というにも何か違うし(相棒のスーパーハカーの正体は素直におバカ映画だと思いますが)、他人にどう勧めればいいのだろう。いや勧めますよ? みんなこの映画観ろ。観て俺と同じ困惑を味わえ(迫真


スーパーサガワ64(その他おまけ)

ベン・アフレックのキャラ造形そのものは素晴らしいというか、観ていて大変魅力的な人物だったように思う。安心できる綺麗な佐川睦夫(!?)。それを取り巻くストーリーも、冷静に考えると「こんな過去がありました→いま、新しい課題とヒロインと出会いました→挫折しました→ヒロインと関係が進んだり再起したりします」って流れでシンプル・・・なワケあるか、あんな再起ねーよ(仰臥)。一応、ベンアフ萌え映画としては十分なポテンシャルはあったと思いますです。ただし角度によってはキャップに次いでビリー・へリントン兄貴に見える。バッツ筋肉モリモリ。


・弟のジョン・バーンサルって人(あれっこの人FURYとかボーダーラインに出てた人か)の怪演もなかなか良い。ただこういうおしゃべり邪悪悪党って中盤〜終盤で主人公に殺される中ボスキャラ的な造形であり、それもあってあのラストの異形感が増しているような。


・っていうかこの映画、逆平等というか、自閉症ベン・アフレック以外の弟・父もどこかおかしくないか。ヒロインとの触れ合いのなかでベンの自閉症が相対的に扱われるところとか(その倫理的・医学的是非は素人の俺にはわからないんですが)シンプルに優しくて好きなんですが(ドレスとホテルの対比とか)、家族の方はみんなもう、自閉症とかじゃなくってただの狂人だよね・・・というイヤな納得感がある。だから佐川兄弟・佐川親子なんですよコイツら・・・。


メディナさんの顔?権限?の広さ、映画的には萌えるけど冷静に考えるとやや不思議である。財務省特捜部からDHS(国土安全保障省)やFBIの各最先端分析サービスに電話一本でお願いポンポン。いや、アメリカの公的機関ってそういう感じなんスかね。仲悪くなければ別にポンポンいけるのだろうか。


・あまりというか凄く政治的に正しくない話なんですけど、この映画って「いわゆる障害者映画」と一緒にしていいのか、っていうのちょっと気になるんですよね。例えばおめぇよぉ、これと「英国王のスピーチ」や「AIKI」一緒にされたら困るでしょーが(困りません皆さん?)。アクション映画という意味では「チョコレートファイター」の優しさと完成度とはまるで話が違うし、これアレじゃね、ある意味で「七人のマッハ!!!!!!!」枠じゃね? いやある意味過ぎますが。
 全くの余談だが、英国王のスピーチの冒頭の「それ吃音じゃなくって、緊張しているだけでは」と思わず誤解してしまいかねないあの場面、賛否はあれどアレがあの映画の魅力を強固にしていた気がする。感動ポルノという言い方があるし、その考え方と批判性は絶対に必要かつ大事なんですけど、ただ「誰かが困難に立ち向かう映画」ってどうしても、微量ではあるけれど、感動ポルノ成分あるんですよね。そこでこの映画の感動ポルノ成分は「ふつうの」映画となんら変わりません、これは一人の男性が困難に立ち向かう普通の映画なんですよ、と宣言することの意味は大きいと思う(コンサルタントの異形から目を背けつつ


・獄中でコンサル技術を授けてくれた師匠ばなし→からの復讐劇、もっと膨らませてもいい気がするし、むしろこれぐらいあっさりしていてもいいような気もする、のだが迷う。迷うと言えば、実はこの映画の紹介でよくある「昼間は会計士、夜は暗殺者(スナイパー)」というのはあんまり正しくない。ベンアフは必要がなければ殺しはせず(必要ならバンバン殺しますが)、請け負う仕事も会計ばかりで、明確に殺人・戦闘自体を職務としている描写がないのだ。でも殺しの手際は本当にプロ級なので、やっぱちょくちょく(復讐劇以外でも)殺ってたんじゃね?という疑惑は拭えないのだが。軍人時代がちょっと不明瞭で怪しい(あんなに回想多い映画なのに)ので、割とその時点でダーティーなお仕事→からの暗黒非合法会計士へジョブチェンジだったのかもしれませんが。なんか俺見落としてるだろうか。いえ、暗黒非合法会計はたいへん危険な仕事なので、時には銃やカラテも酷使することもあったんでしょうけど・・・。


・ちなみに散々衝撃だなんだ書いている終盤ですが、割と爆笑的な意味も含めての衝撃です。みんなも観てみよう!! 男と男、兄弟の感情がぶつかり合う百合だよ!!!(真顔)
「お前の居場所は分かっていたが連絡しなかった。私の仕事は危険だ。お前を巻き込みたくなかった」
「……俺の仕事も危険だけどな……(居場所分かるんなら仕事も分かるだろ兄貴お前ホント兄貴)」


・あ、あと俺頭悪いんで、会計回りの陰謀ぜんぜんわからなかったです・・・(かなしみ