「おじさんはどんなしごとをしているの?」「ダンボールを被る仕事だ」

007 NO TIME TO DIE 感想

 感想をまとめていたら想像以上に長くまとまらなくなったので、急遽放置していたはてブに書くなど。うげぇ2020年映画感想まとめやってませんね・・・(メモはあるが面倒で書いていない)。

 さておき007NTTD(職業柄で某電電公社の子会社を連想してしまいこの略称は悩む)、実際ジェームズ・ボンド中佐に娘が出来てどうこうという部分は問題ではない。元よりクレイグボンドが「大文字の人間的」な(人間という動物が多種多様にみられる手前「人間的な」という表現は不適切なんですがまぁ)ボンドだということは前提だからだ。

 なんせこの人は彼女を殺されて復讐に走り、出だしは経験不足の若造みたいな扱いかと思えばいつの間にか老いた恐竜扱いをされ、母親役を失ってなおも前に進み、二回連続で義兄弟的な相手と戦い、すぐにキレて恋人の話をロクに聞かず(聞けよ)、自分の番号が取られるとえっマジかよ・・・って感じになり、親友の死を悼む男だ。少なくとも関わった女性を平然と足蹴にするようなタイプのスパイではない。
 そういう人物であるからして、娘が生まれてあっどうしよう!えっ父親違うの?そんなぁ・・・いややっぱ俺の娘じゃんヤッター!!ってなるぐらいは自然である。なんならクレイグボンドの最終作に相応しいぐらいでさえあろう。そしてそういう物語を進めるうえで007という存在がひとまず終わることもおかしくはないし、終わり方としても悪いわけではないように思う。

 

 じゃあ何が問題なのか、というとそれはいくつかある。

 

 最後の画があまりにも「ありがちな大味」だったというのもあるが(ジマー流しながら夕暮れのなか爆発に呑み込まれる主人公、ってあまりにもありがち・・・というかありがちでも上手く使いこなせればいいんですけどそうじゃなかったでしょという)、一番大きな問題点は娘との絆が薄い・・・というかそういう描写や尺がかなり足りないことである。とりあえずリンゴ剥いて食わせとこうって描写だけではパンチが足りない。命懸けで守るのもそれだけではパワーが足りない。ウサギのぬいぐるみを拾うのもクラッチが上手く繋がっていない(結局渡せてないし)。なにかこう、もう少しこうボンドと娘の交流を重ねることはできなかったのだろうか。そんなことをやるのは007ではない、という言い訳は通用すまい。尺(時間)が足りなかったという可能性は、後述するが作品全体が間延びしていることが原因ということになりかねない。


 そういう意味ではNO TIME TO DIEは実は「中途半端なのが問題」と言った方がいいのかもしれない。どうせやるなら思いっきりファミリームービーにしてしまえばよかったのだ(し、それなら前述した「ありがちな大味」もむしろ上手く使いこなせよう)。そこまで行かなくとも例えば——映画を作っていない観客が「例えばこうすればよかったのに」と言うのは極めて重い大罪なんですが、どうしても言わせてほしい——例えば、娘にひとこと「おじさんはなんのしごとをしているの?」と言わせればよかったのだ。


「おじさんの故郷の国を守る仕事だ」
「貿易商。ユニバーサル貿易の社員。」
「君のお母さんのような素敵な女性と一緒に働く仕事だ」
「話の分かる上司と仕事をしている。秘書とメカニックも良い奴らだ。さらに最近有能な若手が来たからおじさんは仕事が楽で楽しい」
「仕立ての良いスーツを着て、格好良い車に乗って、好きな飲み物を飲む」
「大切な友達が最近亡くなってね、彼と一緒にやっていた仕事を最後までやりとげたいんだ」
「君や君のお母さんを守る仕事だ」


 ダニエル・クレイグならなんと答えただろうか?

 

 ちょっとお前なにナルシっとるんじゃみたいな脱線してしまったため映画に話を戻すが、他にある問題といえばこの映画、タルい。いやあの、なんでしょうか、中盤のテンポが妙に悪い(そう感じたのは俺だけでしょうか)。キューバからイギリスに帰ってきてから以降、どうにも個人的に納得のいかない遅さを感じる。ブロフェルドの話も長いっちゃ長い(レクター博士感モリモリなのは笑ってしまいましたが)。観返したらそんなに酷くないのかもしれませんが、ファーストインプレッションとしてはあまりにも長く感じられ、ツイッター上では思わず「200倍に希釈したヴィルヌーヴ」というあまりにも酷い暴言を吐いてしまった。2倍希釈ぐらいなら逆にかなり良い作品ですよ、でも200倍ですよ200倍! もうちょっとこう、中盤だけでも圧縮できなかったんでしょうか。いえ別にSWep9みたいな激烈超高速にしろとは言っていないんですよ・・・。

 

 あとこれはツイッターのTL上でも散々言われていることなんですが、なんでしょうかあの異様なまでのMGS感。基本的にやってることがFOXDIEをどうするかなので強烈な既視感に苦しむ。別に特定個人の遺伝子を標的にしたウィルス/ナノマシン自体はありきたりなアイデアなんでしょうけど(それこそ別にMGS1が初でもなかったはず)、流石にMGS4感まで出してくる終盤はどうしようかと思った。というかFOXDIE以外でもちょくちょくそれっぽい場面があり大変だ。よく考えたらMGSV並感も強い。

 

 ここまで散々な書きぶりをしてしまいましたが、NO TIME TO DIEは割と褒められる部分も多い映画です。冒頭やキューバでバンバン殺しまくるアクションは充分に観応えありだし、キューバの姉ちゃんや新007がキッチリ「強い」と描かれてホクホクですし。それに背景が本当に美しく撮れてる。イタリア(マテーラっていうんですかあそこ)とノルウェーの画がどうしようもなく美しいし、最終決戦の北方領土(北方領土!)の秘密基地なんか良い意味で変な笑い声が出ますからね。モネの睡蓮掛けながら枯山水やってる下で光る棒が林立する毒池ってなんだよ!!!(これは「うんうん悪の秘密結社はこうでなくっちゃ」ですね)


 あとラミ・マレック演じるサフィンも個人的には割と好き。ちょっと惜しいというかもっと味付けを濃くして欲しかったかなとか、ガミラス畳の間〜ボンドDOGEZAのシークエンスが緊迫感に頼り過ぎようとして間延びしている所とかはどうも苦手なのですが。そういう意味では台詞に頼り過ぎていて演出が足りなかったというのはあるかもしれない。